腸閉塞イレウスについて
戸塚共立第1病院 副院長 中西 誠

 腹痛が急激に発症し、短時間の間に緊急手術の必要性の判断を迫られる腹部の急性疾患(急性腹症)には、消化管穿孔、急性虫垂炎、胆のう炎、膵炎、腸閉塞、動脈瘤破裂などの病気があります。今回は腸閉塞症についてお話しします。


Q
腸閉塞症(イレウス)とはどんな病気?
A

腸内容の通貨障害が何らかの原因によりおこり、腸液、ガス、糞便などが腸内腔に充満し、排便や排ガスがなくなり、腹痛、嘔吐、腹部膨満などの症状が出現します。なかには、急激に状態が悪化して、重篤な全身症状を起こす事もあるため、早期に適切な処置が必要となる恐い病気です。


Q
原因にはどのようなものがありますか?
A

腸閉塞の原因は大きく二つあります。
一つは腸管の器質的な病変により腸管内腔の狭窄、閉塞を起こすもので、これを機械的イレウスといいます。これには、
● 開腹手術後や腸管の炎症により起こる癒着
● 大腸癌などの腫瘍や、腸の炎症性病変による腸管の狭窄
● 異物の誤飲や、糸コンニャクなどの大量の不消化性食物の摂取
などがあります。
 腸管は腸間膜という膜の中の血管によって栄養を受けていますが、腸管の閉塞と同時に腸間膜もしめつけられて(絞扼され)腸管壁の血行障害を起こし、腸管が壊死に陥り、急激に激烈な腹痛を訴え、ショック症状を起こし全身状態が急速に悪化する事があります。これは、絞扼性イレウスとよばれ、緊急手術が必要となり、単に、腸管内容の通過障害だけが生じている閉塞性イレウスと区別されます。絞扼性イレウスには、炎症による索状物(図a)、腸管と腸間膜の捻転(図b)、腸管がひもを結んだ状態で結束形成(図c)、ヘルニア(いわゆる脱腸)が脱出したままの状態で頚部で絞扼されるヘルニア嵌頓(図d)腸管の肛門側に口側腸管が入り込んだままの状態となった腸重積症(図e)などがあり、腸内腔の閉塞とともに腸管壁の血流障害をおこします。

(図a)索状物による絞扼
(図b)小腸軸捻転絞扼性イレウスの型
(図c)小腸係蹄の結節形成
(図d)嵌頓ヘルニア
(図e)腸重積症

 もう一つは、機能的イレウスとよばれるもので、腸管の気質的な原因がなく、腸管を支配する神経の障害により腸管の運動障害がおこり、腸管内容が停滞するものです。これには、腹膜炎による炎症の腸管への波及や、開腹手術後による腸間麻痺、薬物中毒やヒステリーなどの神経性因子によるものなどがあります。


Q
 腸閉塞で全身状態が悪化するのはどうしてですか?
A

腸管の閉塞がおきると、それより口側の腸管は通過障害のため拡張し、腸液やガスが充満します。腸内容の貯留により腸内圧が亢進すると、腸管壁の血管が圧迫され血行障害を起こし、腸管は浮腫状となり、腸液やガスなどの吸収が障害されます。さらに腸管内の腸内細菌が異常増殖し、それと共に毒素が産生されて、これらが腹腔内や血中に移行することで敗血症をおこします。
 膨満した拡張小腸により、横隔膜は押し上げられて呼吸機能は低下し、腹部の大血管も圧迫されて静脈の流れが障害だれて、心臓や腎臓の機能も悪化します。また、嘔吐や腸管の吸収障害により、水分や電解質の喪失が起こり、著しい脱水と電解質異常をきたします。これらの要因が相互に関連し悪循環となって急激に重篤な全身状態の悪化をもたらします。


Q
 診断にはどのような検査をしますか?
A

腸閉塞にはいろいろな原因があり、それにより重症度も異なるため、腸閉塞の種類(絞扼性か?閉塞性か?)閉塞部位を早期に適切に診断する事が大切です。そのためには、手術の既往歴、病状発症の経過や程度、呼吸や脈拍、血圧など全身状態、腹部の所見が重要です。さらに、血液検査、腹部単純X線撮影、造影剤を用いた小腸・大腸X線撮影、超音波(エコー)検査、CT検査などを行い総合判断して診断します。


Q
絞扼性イレウスと診断するには?
A

絞扼性イレウスでは、発症が急激で、腹痛も接続的な激しい痛みで、初期から嘔吐がみられ、発熱や頻脈などの全身症状を伴い、早期よりショック状態となることもあります。腹部の圧痛も強く、腹膜刺激症状(腹壁を軽く圧迫した後に急にはなすと疼痛を訴える)を伴い、血液検査では、白血球の増多も高度です。腹部単純X線(立位)では、腸管ガス拡張像と、鏡面像(上方にガス像、下方に腸管内液がたまり、水平面を形成)を認めます。しかし、腸管捻転が原因の場合などは、発症が急激のため、特有のガス像を欠き、無ガス像イレウスとよばれます。超音波検査、CT検査では、拡張した腸管と、腸管壁の肥圧、腹水などの所見を認めます。


Q
では、治療はどうするのですか?
A

腸閉塞の原因と、病状の程度により治療法も異なります。絞扼性イレウスと診断した場合は、全身状態が急激に悪化するため、緊急手術が必要です。閉塞性イレウスの場合は、腸閉塞の病態の悪循環を予防、改善することが大切です。脱水の改善、電解質異常の補正のため、適切な輸液を迅速に点滴投与します。腸内細菌の増殖・毒素産生の予防のためには、これらの菌に感受性の高い抗生物質を点滴投与します。また、栄養管理の目的で中心静脈栄養(IVH)を行う事もあります。腸管内圧の亢進を改善するため腸管の減圧を行います。胃管やイレウス管を鼻から挿入して拡張した腸管内容やガスを吸引排除します。イレウス管は胃を超えて小腸まで管をすすめるため、直接拡張した腸管内容を排除でき有効です。また減圧した後に、イレウス管より造影剤を注入し小腸造影することで、閉塞部位の診断にも役立ちます。軽度の癒着製イレウスなどでは、これらの保存的な治療で治癒することがあります。しかし4〜7日保存的治療を行っても、
● 腹痛、腹部膨満などの症状が改善せず、排ガス、排便がない。
● 腹部X線で小腸ガスの減少や消失がない。
● 胃管やイレウス管からの排液量が減少しない。
● イレウス管からの造影で、腸管が完全に閉塞している。
などの場合は、保存的治療をこれ以上行っても治る見込みは少なく、手術が必要となります。手術はその原因と程度により、開腹して癒着剥離、索状物の切除、腸管の切除、吻合、人工肛門増設、などを行います。最近では、程度の軽い癒着製イレウスに対し、腹腔鏡下での手術も行われています。

図1 腹部単純X線写真拡張小腸ガスおよび鏡面像
図2 イレウス管
図3 イレウス管よりの小腸造影
   小腸完全閉塞



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