激しいイビキの方は要注意!!
良い睡眠がとれていますか?

虎の門病院 呼吸器科 成井 浩司先生

平成13年11月9日(金)、虎の門病院呼吸器科成井浩司先生に
睡眠時無呼吸症候群についての講演をいただきましたので、その一部をご紹介します。


プロフィール
■昭和57年 東海大学医学部卒業
■虎ノ門病院呼吸器科医院
■専門分野:呼吸器病、睡眠時無呼吸
■年間約600人のOSAS初心患者
■CPA治療 月400人
■1993年Sydney大学 Dr. Sallivanの下でAuto CPAPを共同研究する
■所属学会 日本呼吸器学会/日本呼吸管理学会/日本内科学会
■ 講演テーマ 「睡眠時無呼吸症候群の臨床」


用語の解説
● SAS(スリープ・アプニア・シンドローム)
[Sleep Apnea Syndrome]:睡眠時無呼吸症候群
● OSAS:閉塞性睡眠時無呼吸症候群
● CPAP:(シーパップ):在宅持続的陽圧呼吸療法


睡眠時無呼吸症候群(以下SASという)は日本の国民病でありながらまだまだ広く知られていません。そのため、症状があっても、適切な治療を受けるまでにいたらずに、毎日苦しい夜を迎えなければならない方がたくさんいらっしゃいます。そういった方々を救いたい一心で日夜この病気の治療に取り組んでいます。

 

 
睡眠医療の特徴
 

 睡眠医療には次の4つの特徴があります。@国民からのニーズがあることAにもかかわらず十分な診療体制が確立されていないことB新しい診療モデルであることCそしてこの診療に携わることで日本の睡眠医療を確立することができることです。
 当院では呼吸器科として次の4つの診療を行なっています。
・ 呼吸器診療
・ 睡眠診療
・ 在宅診療
・ リハビリ診療
しかしながら、患者さんの多くはイビキということで耳鼻科を受診したり、また、高血圧でお悩みの方は循環器の診察を受けられます。循環器で薬物治療を受けているが血圧も下がらずおかしいな、ということで患者さんに良く聞いてみるとイビキがあるとおっしゃる。そこで循環器の先生から呼吸器に紹介されるというケースが非常に多くなっています。これからは循環器の先生がこの医療をしてくれることで、SASの治療は飛躍的に広まり、ひいては多くの患者さんが救われることになるのです。
 SASの医療は新しい在宅医療だといえます。現在日本で在宅酸素療法を受けている患者さんが10万人いらっしゃいますがこの人数は今後そう増える要素は無いと思います。これに対しCPAP(在宅持続的陽圧呼吸療法)を導入されている患者さんは、現在1万5千人いらっしゃって、潜在的なSASの患者さんが100万人と言われるうちの1万5千人しかこの治療を受けていないとすれば、少なくとも残りの98万人の方がいまだ治療を受けるにいたらずに、毎晩イビキをかき、呼吸が止まり、日中の会議では眠くなり、あまり楽しくない人生を送っていることになるわけです。


 
イビキの種類
 

 寝入りばなのイビキや、飲酒・過労時のイビキなどの、いわゆる習慣性のイビキはあまり気にする必要はありませんが、イビキが朝までずっと続く場合や、最近急にイビキが大きくなって音も変わってきたな、という場合は少し気をつけなければいけないと思います。そしてもう1つ注意しなければならないSASのイビキというのは、呼吸が一旦止まったあと呼吸再開時に「カアーツ」とかく大きなイビキです。このイビキの大きさが静かな時期と大きく激しい時期を繰り返す。この呼吸停止時に動脈中の酸素が減って呼吸再開時に大きなイビキをかくことでフッと眠りが浅くなる。そのため深い良い睡眠がとれず熟睡感がなく頭が重くなる。また、イビキを繰り返すことで口や喉が渇き、最近年をとったせいかとても疲れやすい、どうしたのだろう?と思っているとその原因がSASにあるというケースが非常に多いのです。

いびき
1.
習慣性のいびき
入眠時のいびき、飲酒時、過労時のいびき、終夜続くいびき
2.
睡眠時無呼吸症候群のいびき
激しいいびきと無呼吸を周期的に繰り返す

 人口の2割がイビキをかくといわれ、中高年の男性はその6割が、また中高年の女性はその4割に習慣性のイビキがあるといわれています。さらに40歳以上で習慣性のイビキがある人は高血圧を合併する頻度が高いともいわれています。この中にも相当数のSAS患者さんが含まれているわけで、SASの治療をすることが高血圧の症状の改善に結びつくことがかなりあるといえます。
 夫婦の場合どちらが先に眠りにつくかというと、大抵男性のほうが早く寝るわけで、奥様がご主人のイビキを心配して受診されることが多いと思います。逆に女性にSASの症状がある場合でもこれに気付かないことが多いでしょうから、今は女性のSASが非常に注目されており、女性の場合SASの発見が非常に遅れ、見つかった時には非情にひどい状態になっているということがあるので十分注意しなければならないと思っています。


 
睡眠時無呼吸症候群とは
 

 SASの定義としては、「10秒以上の呼吸停止が一晩に30回以上生じる場合」とされていますが、この程度であればあまり問題ではなく、「無呼吸が1時間に20回以上ある場合」にCPAPの治療を積極的に行うようにしています。
 欧米の報告ですと、中高年の男性の4%、女性の2%にSASを認めたとされており、日本でも中高年の男性の3%、女性の2%弱にSASが認められたと報告されています。日本の人口の半分が男性として6千万人、中高年がおよそその半分の3千万人とすると、その3%として大雑把に見積もったとしても90万人、女性を足しても少なくとも100万人はSASの患者さんだろうと予測されるわけです。

睡眠時無呼吸症候群の定義

10秒以上の呼吸停止を無呼吸とし、1晩に30回以上無呼吸が生じる場合、睡眠時無呼吸症候群と定義する


Apnea Hypopnea Index
無呼吸/低呼吸指数

  • 無呼吸:睡眠中、10秒以上、換気が停止すること
  • 低呼吸:睡眠中、10秒以上、換気が50%以下に低下すること
  • 無呼吸:/低呼吸指数(AHI): 睡眠1時間あたりの、無呼吸と低呼吸の回数

 
重症度の判定
 

 さて、この病気の重症度を調べるには、AHI(無呼吸/低呼吸指数=睡眠1時間あたりの無呼吸と低呼吸の回数)を用います。AHIが30〜45の方すなわち重症の患者さんはそこら中にいらっしゃいますが、“重症”といっても他の病気とは違い、SASの場合は治療すれば確実に良くなるというところが一番良いところだと思います。最も重症な部類の患者さんは、アメリカの報告によると、脳梗塞や心筋症、高血圧などを合併する頻度が極めて高く、余命10年位とも言われています。このような方は日中の眠気がひどいため交通事故や労災事故を起こす危険性もあり、自分だけでなく他人にとっても非情に危険であるといえます。アメリカのハイウェイのトラック・ドライバーを検査したところ、75%がSASと診断されたとの報告もあります。

重症度

  • 軽度:AHI=5〜15
    覚醒4分ごと
  • 中等度:AHI=15〜30
    覚醒2分ごと
  • 重度:AHI=30〜45
    覚醒1〜3分ごと
  • 最重度:AHI=45〜100
    覚醒1分ごと
  • 非病的:AHI=1〜5
    覚醒12分ごと

最重度の睡眠時無呼吸症

・ AHI≧45
器質性脳症候群
余命10年未満
心血管系疾患
自分にとっても、他人にとっても、非常に危険


 
睡眠所無呼吸症候群の症状
 

 SASが疑われる症状としては、激しいイビキと無呼吸、中高年の肥満、昼間眠い、集中力低下、インポテンツなどがあります。また、SASの症状としては、この他に睡眠時の頻回の覚醒、夜間頻尿、うつなどがあります。特に夜間頻尿は非情に多く見られる症状で、無呼吸の後の呼吸再開時に「カアーッ」と大きなイビキをかくことで腹圧が上がり尿意をもよおしたり、同時に、尿を出させないようにするホルモンの分泌が低下するために起こるものなのですが、患者さんは前立腺肥大だと思って泌尿器科を受診される。泌尿器科医は、前立腺はあまり大きくないが薬をたくさん処方する。患者さんは薬をいくら飲んでも全然良くならず、無呼吸の治療をするだけで症状がすっかり良くなるといったことがとても多くあるのです。


 
睡眠時無呼吸症候群の合併症
 

 また、SASの合併症としては高血圧があげられますが、日本では高血圧の患者さんが800万人いるわけですが、100万人いると試算されるSASの患者さんはおそらくこの中に含まれると思われます。従って、SASの医療を提供することで高血圧の患者さんが良くなり、ひいてはその分の医療費の削減にもつながるといえます。
 先ほどお話ししましたように、重症のSASの患者さんは様々な合併症を起こしています。アメリカでは1988年にSASの重症患者の生存率が極めて悪いとの報告がされています。SASという病気は、それだけで死亡することはありませんが、その合併症によって必ず何割かの患者さんが亡くなっているといえるわけです。私の患者さんにも、CPAP治療中の方がいて、夏休みに別荘に行った際に機械を持っていかなかったためになくなった方がいらっしゃったり、今では、重症な患者さんにはこの治療をしていれば、少なくとも死ぬことはないんだということを強く言うようにしています。

睡眠時無呼吸症候群を疑う症状
・ 激しいいびきと無呼吸 ・集中力の低下 
・ 中高年の男性の肥満  ・インポテンツ
・ 昼間の眠気 

睡眠時無呼吸症候群の症状
・睡眠中の呼吸の停止   ・大きないびき
・頻回の中途覚醒     ・日中の強い眠気
・熟睡感がない      ・集中力の低下
・夜間頻尿        ・インポテンツ
・ 抑うつ

合併症
・高血圧  ・高脂血症  ・動脈硬化
・脳梗塞  ・狭心症  ・心筋梗塞



睡眠時無呼吸症候群は、寝室をやかましくするだけではなく、2つの重大な結果につながる
1. 疲労
・ 精神機能の低下
・ 意欲の低下
・ 居眠り
・ 事故
2. 心血管系疾患
・ 高血圧
・ うっ血性心不全
・ 心臓発作、脳卒中
・ 死亡

 
睡眠時無呼吸症候群がもたらす重大な結果
 

 以上のように、SASはただ寝室をやかましくするだけでなく、二つの重大な結果すなわち心身の疲労と心血管系疾患につながるものなのです。
 よく朝の通勤電車で寝ている人を少なからず見かけますが、良い睡眠が取れていれば絶対にこんな風にはならないと思います。また、アメリカのスペースシャトルの打ち上げ失敗事故については,NASAの地上捜査員の過労に伴う睡眠障害が引き金になったといわれており、1989年には年間の睡眠障害による国家的損失は130億ドルにのぼると試算した上で、SASに真剣に取り組めば国家は必ず良くなるということでその対策に莫大な予算がつけられました。それ以降アメリカ全土に睡眠センターが出来上がり、睡眠に対する教育システムが確立され多くの人を救い、先のアメリカ経済躍進に大きく貢献してきたといえます。また、1995年に起きたスタープリンセス号のアラスカ沖座礁事故では、航海士の閉塞性睡眠時無呼吸症に起因する疲労が原因とされ、この睡眠障害について広く航海士に知らせるべきであると勧告され、事故を一つの教訓として啓蒙しているとのことです。


 
睡眠時無呼吸症候群と人種・家族歴・年齢差
 

 さて、日本人は欧米人ほど太っていなくてもSASの方が多いわけですが、その特徴として、大きなおなか、小さなアゴ、短い首、があげられます。なおかつ舌の位置が高く後方にある方などで、普通に口を開けて自分でのどの奥が見えないようであればSASを疑っても良いと思います。統計ではSAS患者4,800例のうち3割は肥満度25以下(非肥満)という報告もあり、日本人にとってこの病気はいわゆる中高年の太ったオヤジだけの病気ではないのです。
 また、家族歴も非常に重要で、親のイビキが大きく無呼吸状態があるようであれば自分も無呼吸症になる可能性は高いと思った方がいいでしょう。
 SASは大人だけでなく、子供にも見られる病気で、扁桃腺が大きい場合は手術で良くなりますが、子供のSASは十分な睡眠が取れないために成長ホルモンの分泌が低下し成長障害を起こすという大きな問題を持っているため積極的に治療する必要があるでしょう。

子どもの無呼吸症
・ 発達障害―背が伸びない
・ 知的機能への影響―注意・集中力低下
          −学業成績不振
・ 行動障害―落ち着きがない

診断
問診:自他覚症状
    ベッドパートナーからの指摘
検査:スクリーニング
    ・ スリープテスタ
    ・ アプノモニター
    ・ パルスオキシメーター
   睡眠ポリグラフ
    ・ ソムノスターα、Ω

 
検査・治療の進め方
 

 それでは、どのように検査・治療していくのかについてお話します。最近では自分から「無呼吸症だと思うので治療してください」という方もずいぶん増えてきましたが、やはり大半はベッドパートナーからの指摘です。患者さんに治療まで行ってもらうように説得する手段として、簡単な検査をするようにしています。スリープテスタやアプノモニター、パルスオキシメータなどを用いて検査結果を患者さんに説明し、じゃあ詳しい検査にいきましょうということで睡眠ポリグラフという検査を行っております。この検査では、睡眠の深さ、心循環動態、低酸素血症の程度、呼吸パターン及び下肢の節電図を調べます。当院では4ベッドシステムで2人の医師が朝まで検査を実施しています。胸と腹の動きを調べることでは、閉塞性の無呼吸(OSAS)か、中枢性の無呼吸(CSAS)か、がわかります。また、健常人の睡眠をみると、浅い睡眠(ステージ氈A)と深い睡眠(ステージ。、「)を周期的に繰り返して、良い睡眠がとれるのですが、SASの方の睡眠では深い睡眠まで行かず、浅い睡眠の繰り返しで、深い睡眠はほとんどありません。が、CPAPの治療を始めたその日から、健常人同様の睡眠が取れるようになるのです。OSASの治療法にはNCPAP(鼻CPAP)と、手術やマウスピースなどその他の治療法がありますが、CPAPは手軽で苦痛無く行えることから、最初の治療手段と位置付けていますし、CPAPだけが唯一、無呼吸を完全に無くすことができる有用な治療法だといえます。NCPAPの原理は、鼻にマスクを装着し気道が開くまで圧を上げるだけという極めて簡単なものです。1981年シドニー大学のDr.サリバンがカナダのトロント大学にいるときに開発し全世界に広まったもので、医療の経済状態が変わるほどの画期的なものでした。国家をあげてこの医療に取り組むアメリカの姿勢に比べ、日本はまだまだ立ち遅れているといわざるを得ません。

睡眠ポリグラフの詳細
睡眠ステージ: 脳波、電気眼位図、
頤筋筋電図を用いて睡眠の深さを判定
心循環動態 : 血圧、心電図
低酸素血症の程度: 動脈血酸素飽和度
呼吸パターン: 口鼻の気流の検知
換気動態、胸腹部動きの検知
下肢筋電図 : 周期性四肢運動障害

健常人の睡眠
ノンレム睡眠 stage 汾睡眠
  stage
  stage 。深睡眠
  stage 「
レム睡眠 夢との関連あり

 
CPAPの副作用
 

 CPAPの副作用としてはまず、特に冬季の口鼻の乾燥や鼻閉があげられますが、室温を一定に保つことや、市販の加湿器を使うことで十分対処できます。また加湿器一体型の治療器も出ているのでそれを使っても良いでしょう。また、マスクからの空気漏れも今ではマスクが格段に良くなり十分対応できています。マスク装着による皮膚炎もステロイド軟膏処置で対応できます。が、このようなこともきちんと見ていかないと患者さんはなかなか継続できないので注意しています。


 
当院の現状
 

 当院のSAS患者数は1998年4月の保険適用を機にどんどん増えて、昨年度は新患がおよそ1,000人になりました。外来では診察とスリープテスタによるスクリーニングを行い、その後2泊3日でCPAP導入の入院治療を行っています。体制としては医師以外に呼吸療法士が1名、そして睡眠検査技師13名のスタッフで運営しています。呼吸器科だけでは患者さんが集まらないので、院内では循環器科、耳鼻科、神経内科、小児科の医師と連携し、また、院外では糖尿病専門病院や開業医とも連携し、SASの疑いのある患者さんを紹介してもらっています。


 
日本の睡眠医療の現状
 

 日本の睡眠センターの数はアメリカの3,000に対し40,また治療を受けている患者数は100万人に対して1万人と立ち遅れていますが、この医療は今後確実に広まるでしょうし、そうなることでこの国も良くなっていくと思います。また、地域格差も大きく、特に四国、東北、北海道ではまだまだだといえます。


 

 
今後の課題
 

 これから私たちがすべきことは、全国調査を実施し日本における睡眠障害による問題の規模を明らかにし、この医療を広めるために、治療を受けている有名人の力を借り、患者会を設立し厚生労働省に働きかけ、SASの医療を政策に入れてもらうことだと考えます。また、課題としては、健康管理の一環として健康診断の項目に睡眠評価を取り入れること、CPAP治療における病診連携を強化することなどがあげられます。
 睡眠医療が広まり発展することで予防医学が成長し、医療費を確実に節減できると確信しています。プライマリケア医や循環器の医師も睡眠医療の必要性に目覚め、学んでいただくことで確実に良くなる患者さんが増えるのです。


 
結び
 

 鼻CPAP治療を受け入れた患者さんは、健康と活力が蘇るという奇跡を体験できます。しかしながら、再重度の患者さんで治療を拒否した場合、死に至ることがあるということを改めて理解して欲しいと思います。


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